

ゲーム機の修理やメンテナンスで避けて通れないのが、ヒートシンク周辺のはんだ付け作業なんです。PlayStation 3やPlayStation 4、Nintendo Switchといった家庭用ゲーム機は、CPUやGPUが高温になるため大型のヒートシンクが搭載されていますが、長期使用による熱劣化ではんだクラックが発生することがあります。
参考)PlayStation 3のヒートシンクの交換 - iFix…
特にPS3の初期型で頻発する「YLOD(Yellow Led Of Death)」という故障は、CPUやGPUのはんだクラックが主な原因とされているんですよ。この症状が出ると電源ランプが黄色く点灯した後、赤く点滅してシステムが起動しなくなってしまいます。
参考)PS3のYLODを修理してみたが失敗に終わりました。(素人作…
ゲーム機内部のはんだ付け作業では、熱に弱い電子部品やプラスチックパーツが密集しているため、一般的な電子工作よりも慎重な温度管理と専用工具が必要になります。また、ヒートシンクそのものを交換する際にも、CPUとの接触面に塗布する放熱グリスの扱いなど、細かい注意点が多数存在するんです。
参考)H-73 ヒートシンク / 放熱クリップ【HOZAN】 ホー…

ホーザン(HOZAN) ヒートシンク ヒートクリップ ハンダ付け時の熱障害から部品をまもる放熱クリップ 2個入 最大開口幅6mm H-73
はんだ付け作業で最も重要な補助具が「放熱クリップ(ヒートシンククリップ)」です。この工具は、はんだごての熱から電子部品を守るために設計されたアルミ製のクリップで、ゲーム機修理では必須アイテムなんですよ。
参考)https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/223301950500/
ホーザン株式会社のH-73ヒートシンクなどの製品情報によると、放熱クリップは最大開口幅6mmで、アルミ合金製のため放熱性に優れています。使い方は非常にシンプルで、はんだ付けしたい部品のリード線と熱源(はんだごて)の間に挟むだけなんです。
参考)オヤイデ電気ショップブログ: href="https://oyaideshop.blogspot.com/2016/02/h-1l.html" target="_blank">https://oyaideshop.blogspot.com/2016/02/h-1l.htmlamp;#12304;あると便利グッ…
実際の効果を検証した実験では、ビニール被覆電線に5秒間はんだごてを当てた場合、放熱クリップを使用しない状態では被覆が明らかに溶けて変形したのに対し、クリップを使用した電線はほとんど損傷がなかったという結果が出ています。この熱吸収効果により、LEDや小型トランジスタなど、熱に弱い部品を安全にはんだ付けできるわけです。
参考)第2回 買い物リスト(ハンダ付け道具)
ゲーム機の基板には表面実装部品(SMD)が多く使われていますが、ヒートシンクの取り付けネジ周辺や電源コネクタ部分では、従来型のスルーホール部品も使用されています。こうした部品の交換やリフロー作業時に、周辺部品への熱ダメージを最小限に抑えるために放熱クリップは欠かせません。
参考)https://www.tetras.uitec.jeed.go.jp/files/news/2016/concours/nyuusen_3-1.pdf
さらに、放熱クリップには部品固定の役割もあります。片手でクリップを装着すれば部品やケーブルが固定されるため、もう片方の手ではんだやフラックスを扱えて作業効率が大幅に向上するんです。
参考)ハンダの熱から部品を守る、アルミ製ヒートクリップ: 雑貨屋に…
PlayStation 3のヒートシンク交換を例に、具体的な手順を見ていきましょう。iFixitのPS3ヒートシンク交換ガイドによると、まずは本体背面のネジを外してケースを開け、Blu-ray電源ケーブルやコントロールボードのリボンケーブルをマザーボードから取り外します。
次に、ファンケーブルをヒートシンクのプラスチック製フィンガーから巻き戻し、マザーボードからファンの接続を外します。ファンをヒートシンクに固定している5.7mmプラスネジ3本を外せば、ヒートシンクを取り外すことができるんです。
ヒートシンクを取り外したら、CPUとヒートシンクの接触面に残った古い放熱グリスをイソプロピルアルコールで丁寧に拭き取ります。この清掃作業が不十分だと、新しいグリスの効果が半減してしまうので注意が必要です。
参考)Xbox Oneのヒートシンクの交換 - iFixit 修理…
新しいヒートシンクを取り付ける際は、CPUの中央に米粒大の放熱グリスを乗せます。グリスの量が多すぎると周辺にはみ出してショートの原因になり、少なすぎると冷却効果が低下するため、適量の見極めが重要なんですよ。
参考)Nintendo SwitchのCPUグリス塗り替えで発熱対…
組み立て時は分解の逆順で進めますが、ネジの締め付けトルクには特に注意が必要です。過大トルクによる片締めは、チップの破壊や劣化を招く可能性があるため、推奨される締め付け順序に従い、仮締めは最大トルクの30%程度で行うのが基本です。
参考)https://www.fujielectric.co.jp/products/semiconductor/model/igbt/application/box/doc/pdf/small_ipm/b_small_ipm_06.pdf
Nintendo Switchの場合も基本的な流れは同じですが、Y字ドライバーが必要になる点と、バッテリーを外す前に電源を完全にオフにする必要がある点が異なります。
参考)【写真で全手順解説】Nintendo Switchの異音・熱…
「リフロー」とは、基板上のはんだを再加熱して溶かし、はんだクラックを修復する技術です。PS3のYLOD修理で一般的に使われる方法ですが、適切な温度管理ができないと基板を破壊してしまうリスクがあります。
参考)https://ameblo.jp/banbi642525/entry-11553207267.html
はんだの融点は種類によって異なりますが、鉛フリーはんだの場合は約217℃、従来の鉛入りはんだは約183℃です。ゲーム機の基板修理では、はんだを完全に溶かすために180〜200℃程度まで加熱する必要があります。
工業用ヒートガンを使用する場合、いきなり最高温度で加熱すると基板が反ったり、部品が破損したりする危険があります。そのため、まず人肌程度の温度で全体を予熱し、徐々に温度を上げていく段階的加熱が推奨されています。
実際の修理事例では、GPU(RSX)部分にはんだフラックスを塗布してから、ヒートガンで10分以上かけて加熱する方法が紹介されています。フラックスは基板とGPUの隙間に毛細管現象で入り込み、はんだの再溶融を助ける役割を果たすんです。
ただし、市販の安価なヒートガンでは出力が不足して十分な温度に達しないケースもあります。温度計で測定しながら作業することが重要で、特に部屋の温度が低いと基板がなかなか昇温しないため、作業環境の温度管理も考慮する必要があるんですよ。
別の修理方法として、家庭用オーブンを使ったリフロー修理も存在しますが、フラックスなど人体に有害な物質が揮発してオーブンを汚染する可能性があるため、完全に自己責任での作業となります。オーブンを使用する場合は、基板をアルミホイルで包み、コンデンサやプラスチックパーツなど熱を伝えたくない部分を厚めに保護します。設定は200℃で8分程度が目安ですが、余熱後に基板を投入して5分程度待ってから本加熱を始めると、基板の反りを防げます。
ゲーム機のマザーボードは多層基板で構成されており、一般的な電子工作用の基板よりも複雑な構造をしています。そのため、はんだ付け時には「ヒートブリッジ」という技術が重要になります。
ヒートブリッジとは、はんだごてと接合部の間に少量の溶融はんだを介在させることで、効率よく熱を伝える技術です。こて先と基板表面はミクロ的には平面ではないため、直接当てるだけでは接触面積が少なく、十分な熱が伝わりません。そこで、こて先に極少量のはんだを溶かしてから接合部に当てると、液体状態のはんだが熱の橋渡しをして、加熱効率が劇的に向上するんです。
手はんだの基本手順としては、まず接合部を観察して複数の部品を同じ温度にするための最適なこて先の角度を考えます。次にこて先をクリーニングし、接合部に当ててからヒートブリッジを作成します。その後、わずかな時間だけ待って、こて先から最も遠い箇所がはんだの融点に達したら、糸はんだを供給するという流れです。
DIP ICなどの部品をはんだ付けする際は、こて先と基板の角度を45°を基準として、パターンとリードの熱容量を考慮しながら調整します。また、リードの先端に糸はんだを供給して「赤目」と呼ばれる現象を防ぎ、スルーホールへ適正な量のはんだを流し込むことが重要なんですよ。
ゲーム機特有の注意点として、ヒートシンク自体を基板にはんだ付けする場合があります。自動車のコンピューターに使用されるFETのように、放熱のためアルミケースにネジ留めされた部品では、ヒートシンクとの接触面積を最大化するため、はんだで固定されることがあるんです。この場合、大型のはんだごてや高出力のはんだステーションが必要で、最高500℃まで設定可能な機器が推奨されています。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AF%20%E3%81%AF%E3%82%93%E3%81%A0/
リードピッチが狭い部品をはんだ付けする際は、はんだの量が多すぎるとブリッジ(ショート)が発生します。これを防ぐには、はんだ付けしたい箇所に的確にフラックスを塗布することが効果的です。フラックスによって接合部が十分に濡れることで、余分なはんだがブリッジとして残りにくくなるんです。
参考)はんだ付けで電気を正しく通す注意点は?よくある不具合とその対…
PlayStation 4の開発事例から、ゲーム機特有の冷却設計を見てみましょう。PS4ではヒートシンクに流れる空気の流速に応じて、フィン(放熱板)のピッチ(間隔)を変えるなど、細部にわたって冷却効率が追求されています。
参考)PS4のエレガントなデザインを可能にしたこだわりの冷却設計と…
PS3のVer.AとVer.Gでは冷却シーケンスが大きく異なります。Ver.Aでは電源ユニットが吸気された空気の一部で冷却されていましたが、Ver.G以降はヒートシンクの後に配置されました。これは、温度は上がるものの流量と流速が大きくなるため、トータルでは冷却効率が良いという設計思想に基づいているんです。
PS4ではPID制御を採用し、負荷が高いときだけファンの回転数が上昇し、負荷が少なくなるとすぐに回転数が下がる仕組みになっています。これによりトータルの騒音が最小限に抑えられているんですよ。また、PS4では排気温度センサーが初搭載され、排気温度を制御することで筐体の表面温度もコントロールできるようになりました。
ゲーミングPCやカスタムヒートシンクの世界では、さらに高度な技術が使われています。例えば、銅製のベースプレートにアルミフィンをはんだ付けする際は、銅などの金属用に設計されたトーチとはんだを使用します。完成後はアセンブリ全体を研磨してバリを取り除き、イソプロピルアルコールで汚れを拭き取ってから、デバイスに取り付ける前にベースプレートにサーマルペーストを塗布するんです。
参考)カスタムヒートシンクの作り方:ステップバイステップガイド -…
ヒートシンクの性能テストでは、ストレステスト(ゲームプレイやレンダリングなど)を実行しながら、HWMonitorなどのソフトウェアや赤外線温度計を使って温度を監視します。気温が高すぎる場合は、フィンを追加したり高さを上げたり、銅に切り替えたり、ヒートシンク周辺の空気の流れを改善したりする最適化が行われるわけです。
Nintendo Switchの熱暴走対策としては、経年劣化したCPUグリスの塗り替えが効果的です。カピカピに乾いたグリスをアルコール綿で丁寧にふき取り、高性能な熱伝導グリスを米粒大で中心に乗せて圧着時に均等に広がるように調整します。ヒートシンクをしっかりと戻して冷却システムを元通りに組み立てれば、起動テストでフリーズや異音がなく、温度も正常範囲内に収まるはずです。
| 項目 | 注意点 | 参考温度/数値 |
|---|---|---|
| はんだ融点 | 鉛フリーはんだ約217℃、鉛入りはんだ約183℃ | 180〜200℃ |
| 予熱温度 | 人肌程度から開始し段階的に昇温 | 室温〜100℃ |
| ディップはんだ | 温度と浸漬時間を厳守 | 260±5℃、10±1秒 |
| グリス塗布量 | 米粒大を中心に配置 | 0.1〜0.2ml程度 |
| 締め付けトルク | 仮締めは最大の30% | 製品仕様に従う |
ゲーム機のヒートシンクはんだ付けは、温度管理と適切な工具使用が成否を分けます。放熱クリップで周辺部品を保護しながら、段階的な加熱を心がけることで、安全に修理やメンテナンスができるんですよ。
白光(HAKKO) ヒートシンク 放熱クリップ 610